こんにちは、現役介護士のさかもと ままる@mamaru0911です。
僕は43歳「無資格・未経験」で異業種から、介護福祉・医療の業界に転職して来ました。
現在は介護業界で今最も勢いのある介護派遣会社であり、トップクラスの高単価案件を豊富に持つ、コンプライアンスもしっかりとした優良派遣会社きらケアで「夜勤専従介護士」として、またカイゴジョブで紹介してもらった「日勤パート介護士」としてWワークをしています。
現在は介護職だけで、月収40万円以上稼いでいます。
※僕が未経験で登録した介護派遣会社はベネッセMCMでしたが、現在ではきらケアに介護派遣会社を変更しています。僕が介護派遣会社を移った理由に関してはこちらの記事を読んでみて下さい。
https://www.kaigoshibaby.com/entry/goodbye-mcm
派遣介護士ではなく「正社員介護士」「常勤介護士」としての転職なら、断然「きらケア 正社員」がおすすめです!
僕が介護職に就いて今年で4年目をむかえます。
前職はITベンチャーの社長です。
介護業界と言えば「人手不足」というワードを思い出す人も多いと思います。
2025年全国で38万人の介護士が不足する
とも言われている介護業界ですが、政府はその「人手不足」解消の一端として
- 介護職へのITの導入
- 介護施設のICT化
を現在進行形で進めています。
確かに既存の介護業界に「IT」を導入し合理化を計れば、介護業界の最大の懸念である「人手不足」を補える、という意見は「IT業界」と「介護業界」とを経験した僕から見ても、理解出来る部分もあります。
しかし介護の現場を知らない人々が、理想論だけで介護現場に「IT」を持ち込むと実はそこで働く介護職員にとって、逆に非常な「負担」になってしまう、という現実的な悪い例を、僕は身近で感じました。
僕は現在、有料老人ホームで働く「いち介護士」です。
政府や世間が「間違った」方向で、介護へのIT導入を進めて行けば、我々現場で働く「介護士」「介護職」を楽にするどころか、実はさらに疲弊させることが現実的に起きている、という事実を今日はこの記事を通して皆さんにお伝えしたいと思います。
目次
最先端「IT介護施設」で働いて地獄を見た
先輩S氏
この話の発端は、3年の派遣期間満了のために今の介護施設を辞めた、僕の夜勤専従派遣介護士の先輩である「S氏」が、6ヶ月後に「出戻り」して来た事から始まります。
3年の派遣満了で辞めた夜勤専従の派遣介護士さんが、半年ぶりに戻ってきた!
介護士として理念を持ってしっかりした仕事をする方なのでとても嬉しい
派遣介護士が「戻りたい」と思える職場環境を維持している今のホームは素晴らしい職場だと思う#介護職 #夜勤 #夜勤明け
— ままる@異色の派遣介護士 (@mamaru0911) 2019年6月5日
- 40代派遣夜勤専従介護士
- 介護職歴10年以上
- 夜勤専従介護士歴5年
- 僕がOJTを受けた
- 介護技術、知識共に充分で「出来る」介護士である
僕と同じ夜勤専従の「派遣介護士」は、控えめに言っても「出来る人」と「出来ない人」との差が激しいと思います。
数多いる夜勤専従介護士の中でも、S氏は「出来る」人材だと僕自身は客観的に見て思います。
介護技術や知識、利用者さんへの対応や介護に対する使命感など、立派な介護職人です。
S氏が働いていた施設に「出戻り」した理由
そんなS氏が「3年の派遣満了」で、現職場を後にしたのは2018年の11月でした。
少し寂しい気持ちはありましたが、S氏ならどこの職場でも通用しない訳は無いのであまり心配はしていませんでした。
ところが…
この6月から、今の現場に「出戻り」して来たんですね。
「出来る」介護士であるS氏が現場に戻って来たというのは、嬉しい限りですが同時に
という疑問もあったワケです。
夜勤明けにその理由をS氏に訪ねると、衝撃な事実が明らかになりました。
S氏が新しい派遣先から6ヶ月で、元の職場に「出戻り」した理由は、日本のこれからの介護職の未来を揺るがすような、壮絶な体験が根底にあったのです。
新しい派遣先は「IT化」した最先端介護施設だった
最先端のIT介護施設「Aホーム」の実態
S氏が僕と一緒に働いた有料老人ホームの次に派遣先に選んだのは
最先端の「IT化」した有料老人ホーム
の夜勤専従の仕事でした。
その有料老人ホームを仮にAホームとします。
- 大手資本(介護業界以外)の介護施設グループ
- ワンフロワー20床程度の5階建て(合計100床程度)
- 入居金2,000万〜3,000万円以上の「高級老人ホーム」
- 24時間看護師、介護士常駐
Aホームは、最近都心で多い「大資本」系の介護施設グループのひとつでした。
僕も「超」高級老人ホームで働いた経験があるので、雰囲気は分かります。
そのAホームの場合「高級老人ホーム」の売りの一つとして「IT化」「最先端」をうたっているということです。
では実際にAホームのどこが「IT化」されていて「最先端」なのでしょうか?
全室カメラ付きの完全介護体制!?
Aホームの「IT化」「最先端」の所以は
- 全室カメラ付き
- 24時間「完全介護」体制
だと言う事です。
利用者さんの居室のすべてを「リアルタイムカメラ」で管理することによって、「介護職員」の負担を減らしながらも「完全介護体制」が実現出来る、という事のようです。
さらに何が「IT化」なのかと言うと、リアルタイムカメラの映像が職員が持っている「スマートフォン」にナースコールが鳴る度に映し出される、という仕組みにあるとの事でした。
ここで実際に介護職として「夜勤」の仕事をしている人であれば、疑問が沢山湧いて来ると思いますが、この「リアルタイムカメラ」と「ナースコール」の結びつきが謎ですよね?
そうなんです。
僕も聞いて驚いたのですが、このAホームでは
- 全室に離床センサー
- 全室にリアルタイムカメラ
が備え付けられているというのです。
つまり「自立」して生活している利用者さんでも「リアルタイムカメラ」と「離床センサー」がデフォルトで備え付けられているらしいのです。
地獄の夜勤
全居室に「離床センサー」が付いていて、そのセンサーが反応する度に夜勤者の持つ「スマホ」にその居室の映像が飛んで来る…というのが、Aホームの夜勤の姿なのです。
しかも…
ワンフロワー20床の5階建ての100床を
1,2,3階→夜勤者①
5,6階 →夜勤者②
の合計2名の夜勤者で回しているとのことでした。
100床のホームの夜勤者が2名!?
介護施設で「夜勤」の経験がある方なら、いかに自立した利用者がいてもその厳しさは想像出来ると思います。
鳴り止まないナースコール
さらにさらに…
その全室の離床センサー「ナースコール」が、夜勤者①にも夜勤者②にもすべて届くということです。
つまり1階で夜勤者①が介助に入っている時、3階でナースコールが鳴った場合「夜勤者②」が駆けつける、為に全てのナースコールが2人の夜勤者に平等に届くという仕組み…
離床センサーは、立ち上がりや起き上がりだけでなく寝返りなどの「体動」でも反応します。
その度にスマホに映し出される「リアルタイム映像」画面を確認し、問題無しの場合は当然訪室する必要はありませんが、なにせ100人分の「離床センサー反応」が全て飛んで来る訳ですから、S氏曰く
いや、ほんと「地獄」意外の言葉がありませんね。
S氏が「最先端IT老人ホーム」で得たもの
S氏がAホームを派遣先に選んだ理由
実際に働いてみて「地獄」を味わったS氏ですが、Aホームを新しい派遣先に選んだ理由は
- スマホで居室を確認出来るなんて「楽」そう!
- ITの最先端技術を導入している介護施設で働くなんて経験になりそう!
との事でした。
確かに「全室カメラ設置」という話だけを聞けば、巡視も楽だしナースコールでわざわざ全部に訪室する必要も無いなら「楽」かも!
と思うのは頷けますよね。
イメージ的に言うと、ステーションに座りっぱなしで夜勤が処理出来るような…
しかし、現実は全く違ってS氏の場合は「体力的に限界」だったそうです。
ちなみに夜勤日給は34,000円を超えていたそうですが、通常月に9回10回入っていた夜勤の仕事も、あまりにもキツすぎて回数がこなせず逆に収入は落ちた…と言っていました。
S氏ほどの介護職の経験を持った強者が、これほどまでに疲弊させられる「IT介護施設」…
あなたなら「働きたい」と思いますか?
「最先端IT介護施設」が陥った最大の誤解
ITは介護職にとって「諸刃の剣」だ
ITを駆使して合理化し、介護職の負担を減らそうという考えに僕は反対ではありません。
むしろ以前IT業界にいた僕からすれば、積極的にITやICTを介護業界に導入すべきだと思います。
しかし残念ながら、その使い方を間違うとせっかくのITも介護の現場で働く我々介護職にとっては「諸刃の剣」に成りかねない、というのが今回のS氏の告白で僕が実感したことです。
Aホームの犯した最大の間違い
今回のAホームが犯した最大の間違いは
ITを導入すれば、介護職員は少ない人員で作業を処理出来るようになるはずだ
という机上の空論を地で行ってしまった点にあります。
一見、全ての居室に「ライブカメラ」が設置され、その映像を手持ちの「スマホ」で確認出来るシステムがあれば、巡視や訪室などの物理的な介護職の「行動」「アクション」が削減出来るような気もします。
しかしこれは僕の推測でしかありませんが、5階建ての介護施設を4人で回していた介護施設が、ITを導入したから「2人で出来るだろう」は大きな勘違いです。
実際に介護現場の「夜勤」として働いてみると分かりますが「ナースコール」が鳴る、という現象は、実は介護職員にとっては非常なストレスなのです。
「ナースコール」で受けるストレスの測定
介護職を実際に経験していない人には、何とでも言えると思いますが「ナースコール」が鳴る、という現象から受ける介護職員のストレスは相当なものだと僕は思います。
厚生労働省が、介護職に関して様々なデータを公表していますが実際に介護現場で働く介護職が「ナースコール」によってどれほどのストレスを感じているのか、というデータの測定をどこかの機関で行った、という話は僕は聞いた事がありません。
「ナースコール」を受け取るのが介護職の仕事の一つであることは、僕自身も理解しています。
しかし度を超えた回数のナースコールを受け続けるストレスは、経験者で無ければ分からないだろう、と言うのが僕の本音でもあります。
Aホームは表面上の「IT化」で職員を疲弊させている
この話は本当に今、介護の現場で実際に起きている話なのでAホームで実際に働いている人も、この記事を読んでいるかも知れません。
S氏は僕の同僚であり、尊敬すべき先輩介護士です。
その彼が、半年間でそれほどまでに「疲弊」させられたAホームのオペレーションは、明らかに「正しい」ものでは無いと僕は思います。
現に派遣の夜勤単価が図抜けて高いと言う事は、派遣介護士もその厳しい環境に「定着しない」裏返しだとも言えます。
Aホームは
IT化により介護職員の仕事を「合理化」し、仕事を「楽」にしている
と言うでしょう。
しかし実際は、多くの介護職員をただ「疲弊させている」だけだと僕は思います。
仮にAホームのIT化による施策が成功する方法があるとすれば、夜勤職員をせめて3人4人と増員した上で「ライブカメラ」「離床センサー」のシステムを利用すべきでは無いでしょうか?
政府が進める介護業界の「IT化」
文書の電子化
「2018年度から現場スタッフから行政への報告を電子化した」
というニュースは覚えている方が多いと思います。
これは厚生労働省が進めている動きの一つで、介護業界の現場の作業効率を「IT化」により合理化し生産率向上を目指すものであると言います。
合理化によって「浮いた」時間を実際の現場介護に充て「労働生産性」を高める狙いがあると言います。
紙による「文書」を電子化する動きは、今の時代「必須」だと僕は思います。
しかし「国」の政策には「根本的に」理解に苦しむ項目が少なくありません。
間違いだらけの介護業界「労働生産性」
国は「IT化により介護職の労働生産性を向上させる」と言っています。
一方で僕の様な実際に介護現場で働く「介護職」から「全く意味が分からない」と言われても仕方が無いような指標も数多く出しています。
総務省によると、
社会福祉・介護事業の従業者1人当たりの付加価値額(労働生産性)は288万円で、
製造業の607万円に比べて半分以下である。
生産性の低さが担い手が増えない理由の一つとなっている。
(日本経済新聞 2018/1/23より引用)
介護事業の従業者の労働生産性は288万円
と総務省は試算しています。
この数字は恐らく、高齢者が介護保険を含む「介護費」を介護職員の給料などの合計で割り出したような数字かと思われます。
例えば僕の様な「老人ホーム」などの介護施設で働く介護職員の仕事は、介護施設内のケアで全てが完結出来る訳ではありません。
例えばある利用者さんが、ある日熱発して病院に緊急搬送され「誤嚥性肺炎」の診断を受けて入院したとします。
介護職がその利用者さんのケア中に「体熱感」を感じ、検温してみて初めて「熱発」が発覚し、その後看護職のケアの先に「緊急搬送」があったとしたら、その利用者さんの「命」を救った最上流に「介護職」がある訳です。
そのような現実とは裏腹に、介護に関わった「金額」だけで労働生産性を試算されても介護現場で実際に働く介護士の一人として、とても納得は出来ません。
杓子定規のIT化
このように「労働生産性」そのものの試算が曖昧な中、その「労働生産性」を向上させる為に、介護現場での「IT化」が次々勧められたら実際にはどうなってしまうでしょうか?
今回話題にした「先輩S氏の悲劇」のように、現場とその仕組みを作る機関の認識が遠くなればなるほど、介護業界の「IT化」は便利になるどころか現場のさらなる「疲弊」を招くことになります。
国は介護業界に「IT」を導入するにあたって、その専門家である「ITコンサルタント」の導入が不可欠であるとも言っています。
しかしその「ITコンサルタント」が、介護の現場をどの位理解しているか僕は疑問に思います。
S氏が働いたAホームの例を出すならば「全室離床センサー」「全室ライブカメラ」を導入して「Aホームの施設長」及び「ITコンサルタント」さらには「厚生労働省の役人」までもが実際にAホームの夜勤の仕事をしてみるべきです。
介護業界に限らず、システムは諸刃の剣です。
使い方を間違えれば、介護業界として最も重要な「大切な人材」を失いかねないという現実を介護施設の上層部、厚生労働省をはじめ国の機関はもっと認識するべきでは無いでしょうか?
まとめ
「IT化」「AI導入」「ICT」「IOT」などと聞くと
「何だか凄い」
「便利になりそう」
「楽が出来そう」
と思いがちです。
しかし僕が現在働く「介護業界」で、間違った「IT化」により実被害が出ているという現実を僕自身が感じ、非常な危機感を持ちました。
この「間違ったIT化」がこのまま進めば次の被害者は介護業界で働く「僕」や「あなた」になるかも知れません。
このような現実を一人でも多くの介護職が認識し、常に声を上げなければ日本の介護業界の未来は本当に無くなってしまいます。
この記事が介護職として介護業界を支えている人達に届く事を願って止みません。